Nikkei Advent Calendar 2021 5日目担当、日経イノベーション・ラボの山田健太です。
普段はデータサイエンティストとして日経イノベーション・ラボという研究開発組織で 製品や機械学習の研究開発、事業価値の算出や分析を行う傍ら、先端技術の検証などの仕事もしています(最近の開発事例はこちら)。 最近は意思決定分析/因果推論/経済学/新しいデバイスの利活用などに興味があります。
さて、今回は先端技術の検証に関するお話です。技術検証の一環として最近話題のMeta(Facebookから名称が変更されましたね)のQuest 2について検証を行うとともに、ビジネス利用の可能性について考えてみようと思います。
検証デバイス: Meta(Oculus) Quest 2

基本スペック
- パネルタイプ: シングル高速スイッチ液晶ディスプレイ、片目につき1832×1920px
- デフォルトSDK色空間: Rec.2020色域、2.2ガンマ、D65白色点
- CIE 1931 xy色基本値:
- 赤: (0.708, 0.292)
- 緑: (0.170, 0.797)
- 青: (0.131, 0.046)
- 白: (0.313, 0.329)
- USBコネクター: USB-Cが1個
- トラッキング: インサイドアウト(Quest自体に搭載されたセンサーを用いてトラッキングをしています)、6DOF
- オーディオ: 内蔵、インストラップ
- CPU: Qualcomm® Snapdragon XR2プラットフォーム
- メモリ: 合計6 GB
- レンズ距離: 調整可能 - 3つのプリセットIPD調整
(https://developer.oculus.com/resources/oculus-device-specs/ より引用)
本体にスピーカーが内蔵されているので、基本的には装着すればすぐに使用開始できるイメージです。素人目でみて画質やリフレッシュレートなども必要十分で問題なく感じました。
検証の様子↓
検証環境: Horizon Workrooms(β版)
Meta公式のVirtual会議用アプリとしてHorizon Workroomsというものがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=lgj50IxRrKQ
よかったところ
臨場感
全体として期待していたよりはるかに臨場感がありました。 表情や手や口の動きなど、かなり高精度でトラッキングされており、現実で会議をしている様子とそこまで遜色ない体験ができます。 また、VR上での人物同士の距離や方向で音量も変わってくるため、同じ部屋の中で異なる話題が同時に走っていても、従来のミーティングアプリのように話題のコンフリクトが起きないのも良い点の一つだと思いました(ひょんなことから上司とゼロ距離に立ってしまい、耳元から上司の声が聞こえたときは臨場感がありすぎて変な声が出ました笑)。 VRではなくとも音声通話に距離の概念を持ち込んだものとしてSpatialChatも認知しており、今後個人的に試してみたいと思っているアプリの一つではあります。
資料の共有のスムーズさ
手元で描いたメモがすぐにホワイトボードに表示できたり、もちろんホワイトボードに直接書き込む事ができたりするのも嬉しい点です。 リモートワークでオフィスに簡単には集まれないことや遠隔地の同僚と仕事ができるようになった今、仮想空間上とはいえ巨大なホワイトボードの前にして議論できるのは良いポイントです(操作に一定の慣れは必要ですが)。 更に、Remote Desktopを自分のラップトップに入れることでコンピュータ内の情報を簡単にWorkroomsの世界に持っていけるのも便利だと感じました。
僕が体験した限り、Workroomsの中では音声でのコミュニケーションはもちろん、身振り手振りでのコミュニケーションやホワイトボードへの書き込み、資料の共有など会議において必要なことは一通りできる印象です。まだβ版ですのでこれからさらなる機能の追加や改善が期待されます。
今後の発展に期待したいところ
現実の部屋の広さへの依存
ホワイトボード機能などはとても便利ですが、少し離れた場所に文字を書こうとすると実際に自分自身が移動する必要があります。僕のように狭いアパートに住んでいる人間からすると、どうしてもVR空間の広さに現実が付いてこれないという問題が起こります。 一応部屋が狭いことも考慮されており、各ポイントにワープをする事もできるのですがそれでもなお足りないということもありました。
ヘッドセットの重さや利便性
やはり長時間ミーティングをしたり、VR上で作業するという面ではヘッドセットの重さや充電の減りの速さが気になります。個人的には現状1-2時間位の連続利用が限度かなと思っています。 デバイスの軽量化や省エネルギー化が進めば解決されていく問題であると思いますので、今後の発展を期待したいポイントの一つです。いつかサングラスをかけるくらいの手軽さでVRミーティングができると嬉しいです。
Workroomsはβ版ということもあり、アプリケーションの機能不足に対しては今後の改善やサードパーティ製のアプリケーションなどが増えていくことで改善されていくだろうと考えています。 故に、今後の発展に期待したい箇所の殆どはハードウェア面にあります。
未来について
Connect 2021での発表
- 以前まであったOculus for Businessから全面的にQuest for Businessへ移行していくようです。
- いままでは個人のFacebookアカウントと紐付いて利用していましたが、ビジネス利用用のアカウントができるようです。
- 提供スケジュールとしてはオープンβ版のリリースが2022年、2023年にすべての利用者に提供開始とのこと。
主な機能追加
- 個人作業用のHome環境
- Homeで複数の2Dアプリを並列表示するマルチタスクができる機能
- スマートフォンの通知を受け取る機能
- キーボードやデスクのVR
- Horizon Workrooms
- Zoomと連携したミーティング機能とホワイトボード機能
- Workroomのデザイン機能
- サードパーティのPWA(Progressive Web Apps)
- QuestストアでPWAのアプリを公開できるように
などなど
VRの普及とニュースメディア
日本経済新聞は情報(ニュース)を発信する企業であり、これまでにも様々なフォーマットで情報を発信してきました。 例えば情報を紙に印刷する「新聞」というフォーマット、Webやアプリとして表現する「電子版」というフォーマット。これらはいずれも視覚情報を用いる表現法でした。最近の日経では音声や動画など、様々なフォーマットでの表現を模索しています。今しがた紹介した音声や動画というフォーマットを例に上げると、音声は聴覚情報を用いていますし、動画では視覚・聴覚の情報を用いています。
新聞社であるからといって、必ずしも視覚情報しか使ってはいけないという決まりはありませんし、新しいフォーマットがありそれが普及するならば、そういった需要に対応することでより多くの人によりリッチな情報をお届けすることができます。いままでの新聞体験に過剰にとらわれず、情報を発信することのできる新しいフォーマットとしてVRを捉えることで新しい新聞体験を考えていけたらと思います。
おわりに
本記事ではVRデバイスのビジネス利用に関する技術検証を題材にしました。 現状は現実の再現が着々と進んできている段階で、まだまだハードウェア的制約も残っていると感じますが、これから様々な実装がなされることで現実の再現だけならず、VR空間ならではの利便性がますます得られるようになると考えています。 また、MicrosoftもMesh for Microsoft Teamsを発表するなど、これからますますVRのビジネス用途での利用が盛んになるでしょう。
イノベーション・ラボでは、こういった新デバイス・サービスの有用性をいち早く検証したり、その研究開発を行い新しいアイデアや技術を組み合わせた新しいニュース体験を考えていくことも仕事の一つです。 メディアの未来を作る仕事に興味のある方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
明日は林さんによる「Compute@Edge は GraphQL Server の夢を見るか」です、お楽しみに!