NIKKEI TECHNOLOGY AND CAREER

自由で、オープンなWebを未来に届ける活動

情報サービスで色々な仕事をしている齊藤です。この記事は日経アドベントカレンダー2 日目のエントリです。

アプリという言葉が指すモノはスマートフォンで特定のストアからインストールするモノ、という風にイメージする人がほとんどではないでしょうか?

しかし、スティーブ・ジョブスが MacWorld Expo 2007 にて iPhone を発表した当時は、アプリと言えば Web アプリの事を指していました。 その約 1 年後の 2008 年 3 月には iPhone および iPod touch 向けのアプリケーション開発用 SDK がリリースされ、同年 6 月には App Store がローンチしました。

スマートフォンのデバイスや OS そのものの進化に合わせ、アプリも当然進化を重ね、10 数年前では想像もできなかったことが当たり前にできるようになりました。 ですが、ブラウザも、そのブラウザをキャンバスとする HTML、CSS、JavaScript もまた同じ様に着実に進化を重ねてきています。

今年の半分がはじまる頃、私は Open Web Advocacy(OWA)というグループと関わり、業務の傍ら、今日まで断続的にグループのメンバーとともにボランティア活動を行っています。

OWA は Matthew Thomas 氏、Stuart Langridge 氏、Bruce Lawson 氏を中心に 2021 年頃より活動をしているグループで、Google や、Mozilla、Microsoft はもちろん、どこからも資金を得ず、グループに関わっているソフトウェアエンジニアの完全なボランティア活動として運営されています。

このグループでは、Apple によるサードパーティ製ブラウザの禁止の撤廃、そして Web アプリとネイティブアプリとの機能差の撤廃を優先事項と掲げ、これらに関する複雑である技術的な詳細情報を政策立案者や立法に関わる人に向けて提供することで、オープン Web の未来を確保するという活動を行っています。

OWA ではこれまでに、イギリスにおける、Competition and Markets Authority (CMA) 、日本で言う公正取引委員会が近い、がまとめたMobile ecosystems market studyの策定に関わり、つい先日もオーストラリアにて活動を通じて主張してきたポジションが受け入れられました。他にも EU ではすでに立法化し、アメリカでも立法に向けて進んでいます。

さらに、11 月 22 日、イギリスにてクラウドゲーミングに関するブラウザの状況についての調査が開始されることも決まっています。

もちろん、日本でも同様の動きがあり、今年 4 月にも「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」へのパブリックコメントの募集が開始され、私が OWA の活動に関わりを持ったのは、パブリックコメントの締め切りの丁度 1 日前である 6 月 9 日のことでした。

このパブリックコメントの主幹である内閣官房デジタル市場競争本部から、OWA に対してパブリックコメントの提出を打診されたとのことで、OWA ではイギリスの CMA に提言したBringing Competition to Walled Gardensを元に対するパブリックコメントの提出を行おうとしており、私はその日本語訳の監修と修正を行いました。

OWA にはこれまで日本にいるメンバーが限られており、OWA の活動に協力的なとある海外の知り合いより協力依頼を貰い、ブラウザや Web 技術に関する標準や仕様について個人的に興味を持ち、様々な活動を手伝ってきた経験もあるので、「是非」という流れで活動に参加することになりました。

OWA での活動は単にドキュメントをサイト上に掲出したり、派手なキャンペーンを打ち出したりもせず、更新頻度が高いとも言えないシンプルなウェブサイトがあるのみで、国のポリシーや法律を変えることを後押しする、というひたすら地味な活動に徹している点がこれまで関わってきた活動と異なっています。

実際に私も OWA のメンバーとして翻訳以外にもパブリックコメントの提出後、内閣官房デジタル市場競争本部のメンバーと提出したパブリックコメントの Q&A を行ったり、内閣官房デジタル市場競争本部が定期的に開催している、専門家との Q&A に参加したり、などをしてきました。

ここでは OWA がこれまで具体的に提示している情報や提案については触れませんが、前述したイギリスの CMA に提言したBringing Competition to Walled Gardens、10 月末頃に開催した専門家とのQ&Aで配布したスライドが現時点でまとまっている資料なので、興味があれば是非御覧ください。

なお、最近 OWA では iPhone における Safari 以外のサードパーティ製ブラウザの禁止を解除するために現在「Trusted Browsers」という仕組みの提案をまとめているところで、私はその翻訳をするにあたり原文の完成を待っているところです。

OWA が提案している内容そのものはソフトウェアエンジニアとして Web に関わる仕事をしていればごく自然な主張であり、急進的な提案では決してありません。 「何故 iPhone ではブラウザで通知機能を使えないのか?」という、Matthew Thomas 氏のフラストレーションこそ、グループの根底にある問いです。 私自身も通知という機能が(Safari 以外の)ブラウザで利用できるようになったばかりのタイミングで実装をしようとした自分も同じ様に感じていた問いです。

OWA ではこのようなシンプルな問いの後ろに隠されている、複雑でニュアンスのある技術的な詳細情報を政策立案者や立法に関わる人に向けて提供することを活動の主眼においています。

もちろん、OWA の活動だけが原因ではないにしろ、今年に入って Apple 社も Safari に対して多くのリソースを投入し、Safari も着実に変わりはじめています。 (MacOS ではようやく通知機能が利用できるようなったものの、iOS ではいまだに利用できませんが)

巨大なプラットフォーマーに対する国レベルの規制という動きは、この数年で新聞に掲載されるほど大きなものになってきています。

果たして国が期待通りに規制できるものなのか、プラットフォーマーが「守っている何か」は純粋に利益だけでは無く、彼らが主張するように、ユーザのプライバシーやセキュリティーなどを守っているだけで、その活動から得られるものがたまたま大きな利益となっているだけなのか?

国からも、プラットフォーマーからも解き放たれるためには、新しい Web が必要だとする主張もあります。

つい最近も、Twitter の共同創設者であるジャック・ドーシーも『We need a new mobile OS that’s web-only.』と Twitter で発言し、(狭い世界の話ではありますが)大きな話題になりました。

OWA ではごくシンプルな問いを立て問いへの回答をガバナンスレイヤーに影響を与えることで着実な変化をもたらそうとしています。

こうした様々な視点からの議論が発生することが未来を支える土台になっていくでしょう。

OWA は活動に賛同し、活動を支援してくれるメンバーを随時募集しているので、こちらも興味があれば参加していただければ

齊藤祐也
ENGINEER齊藤祐也

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