日本経済新聞社のAdvent Calendarの 10 日目の記事です。
こんにちは。日本経済新聞社データビジュアルセンター戦略コンテンツグループの中川です。
戦略コンテンツグループは日経のデータ分析力とビジュアルな表現力を組み合わせ、日経ビジュアルデータコンテンツを制作しています。
はじめに
コンテンツを作っている制作チームはどんな仕事をしているの?この記事は、そんな疑問に答えます。学生の皆様に新聞社の雰囲気を味わっていただけるように当日の社内の様子も踏まえて解説します。 2022 年参議院選挙の事例を元にコンテンツ制作のスケジュールと制作の裏話を紹介します。
選挙のコンテンツにフォーカスする理由は、業務の中でも責任が大きくやりがいを感じるためです。読者の皆様は出馬情報や公約や当落情報などの判断に関わる情報を求めて日経電子版にアクセスしています。選挙期間中は当落情報や党の勢力情報をアップデートすることを期待されます。制作チームは公開するスピードを上げて期待に応えると同時に、公開する情報を間違えないように作業しています。
この記事では、制作チームのコンテンツ制作スケジュールを紹介します。次に自分が関わったコンテンツのこだわりや裏話を紹介します。最後に 2022 年参議院選挙のコンテンツ制作を通じてサービス開発とは違ったコンテンツ制作の面白さを紹介します。
全体的なスケジュール
この章では全体的な選挙業務のスケジュールを紹介します。基本的に選挙のコンテンツは 3 ~ 4 ヶ月前から準備します。今回は参議院選挙だったので大まかなスケジュールがわかっていました。参議院選挙のスケジュールを確認したい方はぜひこちらに解説があるので読んでみてください。
選挙 4 ヶ月前
データビジュアルセンターの責任者が制作するコンテンツの内容を大まかに決めます。今回の 2022 年参議院選挙では 4 ヶ月前の時点で下記 2 点が決まりました。
- ①「情勢調査」「各党公約」を新規作成する
- ②投開票日直後に「参院選比例マップ」と「出口調査に基づく年代別・男女別の選挙区シミュレーション分析」を作る
選挙 3 ヶ月前
選挙が近づくにつれて新規のコンテンツの内容が決まり始めます。コンテンツ制作の編集責任者は選挙の争点を抽出し、需要を整理してコンテンツの内容を決めていきます。
新規のコンテンツ制作だけではなく、過去公開したコンテンツに最新の情報を追加します。これは過去の選挙の振り返りを読者の皆様が行えるようにするためです。
コンテンツ制作が決まると各々のディレクターは具体的なコンテンツ制作に向けて動き出します。デザイナーとエンジニアをアサインしてコンテンツ制作に向けたスケジュールを組みます。私は「選挙当日の政党勢力図のアップロードツールの作成」、「出口調査に基づく年代別・男女別の選挙区シミュレーション分析」と「参院選比例マップ」にアサインされました。
アサイン決定後コンテンツ制作の具体的な打ち合わせが始まります。
選挙 2 ヶ月 ~ 当日まで
選挙前のコンテンツが公開されます。今回の参議院選挙では 4 つのコンテンツが選挙前に出ました。1 つ目が今回の選挙のポイントの解説したコンテンツ。 2 つ目がこれまでの選挙結果をまとめたコンテンツ。3 つ目が選挙の仕組みを解説したコンテンツ。 4 つ目が開票速報と立候補者を一覧にしたコンテンツです。
党首の戦い 演説と聴衆データで見る 参議院選挙2022
こちらのコンテンツは集まった人の滞在時間を携帯電話の位置情報データで分析し、各党の勢いや支持層への浸透度を解説しています。加えて多用した言葉などに基づいて演説における訴えの内容の変化を追っています。
衆議院選挙と参議院選挙、議席の攻防史
こちらは 1986 年から 2022 年までの選挙を振り返ることができるコンテンツです。各党の選挙後の議席数、議席占有率と歴史を一覧できます。
参議院選挙の仕組み 合区・特定枠・合併選挙などを解説
こちらは参議院選挙の仕組みをまとめたコンテンツです。参議院の存在意義、投票の仕組みや衆議院選挙との違いなどを選挙の前に確認できます。
ちなみに参院選のしくみと衆院選のしくみは日本タイポグラフィ協会が主催している日本タイポグラフィ年鑑 2023 で入選しました!
開票速報と立候補者一覧
こちらのコンテンツは選挙区ごとに誰が立候補したのかをまとめたページです。当開票日には政党ごとの勢力図をリアルタイムに更新します。加えて、候補者の当確情報を掲載します。全体の選挙結果と各選挙区の細かい情報どちらも確認できる選挙結果がまとまったコンテンツです。
選挙前のコンテンツがリリースされると、当日以降のコンテンツ制作が本格的に始まります。
選挙当日に向けたリハーサル
リハーサルの日は会社に集まって当日の進行を再現しながら確認を行います。 選挙当日は当確が分かった時点で出来るだけ早く電子版に掲載する体制を取っています。このリハーサルでは電子版に結果を掲載するまでの練習を行い、他部署と連携ができているかを確認します。自分の書いたプログラムがきちんと動くのかどうかを確認するチャンスではありますが・・・ヒヤヒヤします。
選挙当日
先日の選挙では、社内の緊迫している様子を NIKKEI LIVE で放映していました。現場の緊張感は実際に業務を行わないと味わえません。 14 : 46 秒付近から社内の様子が記録に残っているので是非ご覧ください。
この選挙対応の様子が外部に公開されるのは自分が入社してからは初めてかもしれません。せっかくなので、エンジニア目線で当時の様子を紹介します。
メインフロアの様子
メインフロアは一面になるニュースを決めたり、電子版に掲載する記事を決めたりする新聞社の核となる場所です。
選挙の投開票日は選挙報道に係る部署が集まり 20 時の当確速報に備えて待機しています。ここに初めて入った時の印象は、雑然としている・・・・!でした。積み上がった紙の資料や本や新聞がそこらへんにある様子がまさしく新聞社だなと思った印象があります。動画だと雑然としている感がよくわかると思うので机に着目してご覧ください。ちなみにデジタル職のフロアはもっと整理整頓されていて綺麗です。
当日更新する政党の勢力図の更新
このフロアには壁一面のディスプレイがあります。選挙当日は電子版のトップページと、選挙に特化したページを表示していました。
この画面をもう少し拡大してみました。最新の当確情報をもとに、与野党がどれくらいの議席数を獲得したのかを表しています。
こちらの画像を、責任者が目視で確認し、チームメンバーの誰もが更新できる仕組みを作るのが自分の仕事でした。
20 時は各メディアが同様に当確情報や政党の勢力図予想を出す時間と決まっているため、 20 時がピリピリ空気のピークです。この時間帯が過ぎた後は、徐々に穏やかなペースで情報を更新します。
実際に作業した現場
戦略コンテンツグループの選挙対応チームがこのフロアのどのあたりにいるかというと、実はディスプレイの目の前付近にいます!この位置は他部署の記者チームが周りにいるため、色々なざわめきがよく聞こえる場所です。

図にしてみるとこんな感じです。チームの責任者の隣で画像を更新していました。
選挙翌日:「参議院選挙2022 投票結果データ分析」のリリース
今回の選挙の見どころや勝敗を分けた要因を分析したコンテンツを、選挙翌日にリリースしました。
午前 6 時から制作チームは会社で待機して記者チームからの原稿とデータが来るのを待ちます。昨日の選挙結果を見直しながらコンテンツ内の間違えそうなポイントや不明事項を洗い出します。
午前 10 時付近に原稿とデータが送付されてきました。細かいプログラムの修正を行い、原稿とデータを流し込みます。記者に内容に問題がないかを確認してもらいます。午後 5 時半ごろ分析コンテンツが公開されました。
選挙後一週間:「政党得票率あなたのまちは? 参議院選挙比例マップ」のリリース
分析コンテンツに加えて選挙翌日から地図のコンテンツのデータ整形の仕事が始まります。このコンテンツは政党ごとの得票率に応じて市区町村を塗り分けたものです。
この地図コンテンツの制作時、 47 都道府県全ての選挙管理委員会から選挙結果のデータを受け取ります。このデータは pdf 、エクセル、紙など県によってさまざまで明確なフォーマットが整っていない状態です。これをコンテンツに表示させるために手分けをして整形します。
県によってフォーマットが整っていない話は明日のアドベントカレンダーの記事で千﨑さんに解説していただきます。
このコンテンツはおおよそ 2 日間で全てのデータの集計と整形を完了させます。残り 4 日間は間違いがないかを確認する作業です。記者チームの確認が完了すると公開します。
関わった選挙コンテンツの制作裏話
この章では自分が関わったコンテンツの制作裏話を紹介します。
参議院選挙2022 投票結果データ分析
このコンテンツの中で最も印象に残っているのは、野党協力が進まず自民が議席を奪還したことを解説した箇所です。ディレクターとデザイナーの会話によってコンテンツがブラッシュアップされていく様子を目の前で体験できたことで、まさにコンテンツ制作の現場にいると感じました。
このセクションは、野党が勝ったのか与党が負けたのかどちらをメイントピックにするかによって文章の書き方や挿入図の作り方が変わってきます。

設計時点では、野党と与党のどちらがメイントピックなのか曖昧な状態でした。セクションのタイトルは野党協力の話をしているのに下の図は与党視点で作られているような、話の筋がねじれている印象がありました。
このねじれ具合が、自分にはどうしても言語化できませんでした。経験年数の長いディレクターとデザイナーが一言一言主語と述語を読み上げたり、図に野党と入れてみたり、タスキを青に変えたり、過去との比較を入れてみたりと試していました。全体を俯瞰してみたり、図だけをフォーカスしてみたり、何度も視点を入れ替えてプロトタイプをブラッシュアップしていくとねじれが解消されていきました。コンテンツの筋が通っていない違和感をロジカルに説明し、文章とグラフィックに落とし込んでいく技を見てこういった方々と一緒にお仕事ができる幸せを感じました。
政党得票率あなたのまちは? 参議院選挙比例マップ
このコンテンツは市区町村の政党別得票率に応じて地図を塗り分けたものです。

特に大変なのが、政党ごとの得票率を集計することです。実は選挙管理委員会が提供しているデータは得票数です。得票率は提供されていません。短い期間で集中的に全ての市区町村の得票率を集計し、地図を塗り分ける必要があります。

このデータを集計するコンテンツを作る時、記者チームの確認の工数がかなりかかっていた問題がありました。 この問題を解決するために今年は下記手順で整形を行うことになりました。
- まず一つの県ごとに二人担当者をつけます。
- それぞれデータを整形しスプレッドシートにそれぞれ貼り付けます。
- 二人の担当者が作ったシート同士の差分をプログラムでチェックすることで、ダブルチェックと整形チェックを同時に行います。
手順を見直した結果、二人で整形しているので精度も高まり手戻りが減りました。加えて差分をプログラムでチェックする仕組みができたため、集計に対する安心感が増しました。
このように継続的に作るコンテンツも毎回反省を活かしてちょっとずつ改善をおこなっています。
まとめ
選挙は会社一丸となって取り組んでいます。選挙に向けて情報を整理し、読者の皆様に欲しい情報をお届けできるように日々努力しています。
選挙当日は緊迫した中で対応するのでアドレナリンがドバドバ出ます。手も震えます。初めて選挙の業務を経験したときは、なんとも言えない高揚感を感じました。まるで祭りのようなハレの日を感じるのです。プレッシャーで本番前日には吐きそうになるのに、本番後はまたやりたい!となるのです。不思議ですね。 ( ピリピリ感は是非 NIKKEI LIVE を見てください )
3 年前までは電子版アプリの開発に関わっていました。コンテンツ制作に関わる事でサービス開発とまた違ったメディアならではの面白さが体験できました。今後選挙報道を見る際は、是非情報の一つ一つに大勢の人が関わっているんだなぁと思い出していただければ幸いです。
明日は 11 日目、戦略コンテンツグループの新卒エンジニア千﨑さんによる「編集データビジュアルセンター戦略コンテンツグループ新卒エンジニアの 1 年の振り返り」です。お楽しみに!