こんにちは。編集データビジュアルセンターのデータ報道グループの記者の並木、戦略コンテンツグループのデザイナーの伊藤、エンジニアの中川です。編集は日経の記事を作る部署で、データビジュアルセンターはその中でもデータ分析や可視化、写真や映像の活用に特化した部署です。
並木は 2021 年に日本経済新聞社に入社した新卒 2 年目で、普段の業務では SNS データや地理空間データなどビッグデータの分析や OSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)を活用した記事を執筆しています。
伊藤は 2017 年に入社してビジュアルコンテンツのデザインと実装などを担当しています。
中川は 2017 年に入社して、モバイルアプリ開発、電子版のプロモーションに携わった後、現在の戦略コンテンツグループに異動しました。業務内容はビジュアルコンテンツを作成したり、業務を楽にできる仕組みを作ったり、未来の報道で活用できるような新しい表現の研究開発をしたりしています。
この記事では私たち編集の若手が 2022 年 10 月から行っているデザインとデータ可視化の勉強会について紹介したいと思います。勉強会では、データ可視化界隈でバイブルとされる書籍「データビジュアライゼーション ―データ駆動型デザインガイド-」を輪読しています。

データビジュアルセンターはどんな組織?
私たちはデータビジュアルセンターに所属しています。編集という大きな組織の中に含まれていますが、記者だけでなく、エンジニアやデザイナー、カメラマンなどが所属するニュースルームの中では少し特殊な組織です。
私たちのミッションの一つは Web ならではの技術やデザインを駆使してニュースを伝えることです。具体的なアウトプット場の一つは日経ビジュアルデータです。
ビジュアルデータではデスク(編集者)、ディレクター、記者、デザイナー、エンジニアの 5 つの職種が連携しながらコンテンツを制作しています。デスクは、読者に何を伝えるのか情報を整理し優先順位を決め、伝える内容に責任を持ちます。また、ディレクターは、プロジェクト全体をまとめます。プロジェクトの進行管理やデザインのクオリティ管理を行います。記者は、データの分析やコンテンツのストーリーを作成しています。 デザイナーは、コンテンツの設計、デザインを担当しています。 エンジニアは、配信の仕組みや、ユーザーからのインタラクション部分を含む制作を担当しています。5 つの職種が連携し合い、日々コンテンツを制作しています。
ビジュアルデータの具体例として、並木が関わった作品では「画像生成AI 見分けられる? クイズ&ビジュアル解説」があります。
伊藤は別の記事で紹介しているのでそちらを参考に。
中川は「中国共産党、新指導部24人全データ」に参加しました。また、コンテンツ制作の仕事だけではなく、編集の仕事を効率化するための仕組みづくりの仕事もしています。
選挙の裏側でどんな仕事をしているのかは、エンジニアから見た選挙コンテンツ制作の裏側に詳しく紹介しています。興味を持たれた方はぜひ御覧ください。
なぜデータ可視化とデザインの勉強会を始めたのか?
私たちは以下の観点から報道に携わる者としてデータ可視化を中心としたデザインを学ぶことが重要だと考え、勉強会を始めるに至りました。
報道機関にとってのデザインとは、ニュースの理解の手助けをするための情報設計を行うことで、ジャーナリズムの一つのプロセスとして不可欠だからです。
新聞社は元来デザインの技巧家でした。面積の限られた紙面において、見出しやレイアウトを駆使してニュースの価値判断や取捨選択を行うことが新聞社のデザインの営みそのものだったからです。
しかし 21 世紀以降のインターネットの急速な普及は新聞社を紙面というデザインの制約から強制的に解放しました。圧倒的な表現の自由度を持つネットがメディアの戦場となったいま、新聞社は情報空間の中で無限のデザインの選択肢の中からニュースを伝えるために最適な情報設計と表現手法を選択するため、体系的にデザインを学ぶ必要が生じたのです。
求められるコンテンツの形式が多様化し、それぞれに応じたデザインが必要となったことも理由です。膨大なデータが飛び交う情報空間では、従来よりも直感的にわかりやすく、短時間で読めるコンテンツを設計する必要が生じました。一方で継続的な読者の需要に対応した息の長いコンテンツ(新型コロナウイルス感染 世界マップなど)も必要になるなど、多様な消費に応じたコンテンツを提供する必要があります。
また、 SNS や Podcast など多様化したコンテンツの流通方法に応じた情報設計も必要です。
特にデータを扱う専門部隊である私たちは、「データ可視化」の観点でのデザインが重要になります。例えば、「日経ビジュアルデータ」の一覧表とチャートで見る、値上げラッシュ、価格はどうなる?がデータそのものに加えて可視化も価値を持つことを示す一例です。
こうしたコンテンツの制作を通じて、データを正しく伝えるためのデザインや、恣意的な見せ方をしていないかなど注意しながら常にフラットな立場で制作することの重要さ・難しさを痛感することになりました。特にデータの種類などが多岐にわたる場合、読者に整理されたわかりやすさを提供する必要があり、そのための情報設計のデザインが欠かせません。 また、私たちのコンテンツは新聞というパッケージではなく単体として見てもらうことが多く、報道機関としてしっかり信頼してもらえるような佇まいも求められます。こうした背景があり、データ可視化を主軸に置いたデザインを体系的に学ぶ輪読会を開催することになりました。
輪読会で読むのはどんな本?
デザインに関するどの決断も(どの点,どのピクセルも)根拠を説明できなければならない。何となくの好みに基づいていたり,冗長であったり,余計な価値観を提示していたりするべきではない。
(データビジュアライゼーション ―データ駆動型デザインガイド- 本文 p.34 より引用)
この本はデータ可視化のデザインを行う上で必要な批判的思考を養うことを目的としています。そのために必要なデータ可視化の基盤となる技芸や思考のフレームワークを取り上げているのがこの本の特色です。具体的なツールの使い方やプレゼンでの可視化スライドのコツなどについては取り上げず、そういったことは、書店の薄っぺらい本か公式のドキュメントでも読んでおいてくれというスタンスに立った本です。
データ可視化に携わる人々にとっては、「バイブル」や「教科書」といった評価を受けることが多いです。
朝倉書店様より『データビジュアライゼーション データ駆動型デザインガイド』をご恵贈いただきました。第2版の日本語訳です。 第1版の原著が発売されたのがちょうど私の留学中で、レポートや制作課題ではめっちゃ頼りにしていた思い入れのある本です。データ可視化を仕事にする人の、いわば教科書。
— 荻原 和樹@『データ思考入門』講談社現代新書 August 5, 2021
この本は第Ⅰ部から第Ⅲ部までの 10 章構成になっています。
第Ⅰ部: 基礎
第Ⅰ部ではデータ可視化を理解するための基礎を扱っています。
第 1 章では「データ可視化の定義」、第 2 章では「可視化デザインプロセス」について書かれています。
第Ⅱ部: 背後の思考
第Ⅱ部では、2 章で紹介されたデータ可視化デザインプロセスを用いて、プロジェクトの最初の一歩を学べます。
第 3 章では「要項を作成する」、第 4 章では「データの処理」、第 5 章では「編集的思考の確立」について書かれています。
第Ⅲ部: デザインソリューションの開発
第Ⅲ部では、2 章で紹介されたデータ可視化デザインプロセスを用いて、具体的なデータ可視化の手法を学べます。
第 6 章では「データ表現」、第 7 章では「インタラクティブ機能」、第 8 章では「注釈」、第 9 章では「色」、第 10 章では「構成」について書かれています。
輪読会の進め方とコツ
記者やデザイナー、エンジニアなど様々な職種のメンバーの混合で、各自の通常業務と並行しながら行っています。輪読会を開催するにあたって工夫した点を紹介します。
- 本を読んでくることを前提に勉強会を進行しています。本から学んだことを発表した後、今の仕事の進め方はどこが問題なのだろう?どうすればより仕事がしやすくなるだろう?といった学んだことを仕事につなげるにはどうしたらよいかを議論する機会になっています。
- 本に掲載されている作例に実際にアクセスして触ってみてその時の感触をリアルタイムに言い合える時間を作っています。本に掲載されている良い事例、悪い事例に実際に手を触れることで、チーム内での共通認識を作ることができました。
- 本の中で良いとされる作例でも、日経のデザインフィロソフィやチームのデザインポリシーに照らし合わせて私たちがそのデザインを選択するべきどうかも議論します。
- この部署は全体的にデータビジュアライゼーションに取り組んでいます。どの職種も関わるテーマであるため、記者 1 名、エンジニア4名、デザイナー3名という職種横断型の輪読会ができています。それぞれの職種で課題だと思っていることを話せる機会になっています。
- 頻度は 2 週間に 1 度。他の業務と並行してすすめる中で毎週実施は少しきつく、隔週実施が一番うまく行っています。
- 各自が事前に取り上げるページを読んできている前提で進めており、特にスライドなどは作りません。勉強会の司会者の負担が大きくなってしまい、自分が司会を担当する以外の章を読まなくなりがちなためです。この形式は、社内のデジタル部署の輪読会の進め方を参考にしています。
- 輪読会の内容はすべて Notionに記録しています。将来入ってくる人材のために データ可視化やデザインのあらゆる知見を明文化し永続化するためです。
ここまでの輪読会での学び
10 月にキックオフしてから輪読会で得た学びを 1 人 1 つ書き出してみました。
- データ可視化に必要なスキルを 7 種類に分解した「可視化デザインの 7 つの帽子」というコラムが大変ユニークでした。ジャーナリスト(記者)やエディター(編集者)だけでなく、クリエイティブを追求するデザイナー、統計学やデータに長けたアナリストの能力などが含まれているという構造が明快です。今の私たちの強みや伸びしろを認識できました。(並木)
- 本に書かれていることと実務をリンクさせざっくばらんに話し、属人的な部分を洗い出して、チームの認識としてすり合わせができました。(伊藤)
- 実はこの本で特に面白いのはコラムだと思っています。海外のデータビジュアライズデザイナーやエディターやジャーナリストのコメントが多数収録されています。どこの現場もスムーズにプロジェクトを進行できたわけではなく、どこも似たような課題に直面し悩んで解決しようとしているという正直なコメントが掲載されています。自分たちだけではなくいろんな組織が同じような問題で悩んでいることがわかった点で勇気が出ました。(中川)
出所:The "Seven Hats" Dream Team Challenge - Visualising Data
おわりに・新卒採用始まっています!
本記事ではデータ可視化とデザインの若手輪読会についてお届けしました。 データビジュアルセンターでは、データ可視化やデザインに工夫を凝らした様々なコンテンツを公開しています。興味がある方は是非「日経ビジュアルデータ」のコーナーをご覧ください! 日本経済新聞社は 2024 年入社の方向けに、「データジャーナリスト」や「ビジュアルデータ制作」の枠を募集要項で公開しています。本記事で興味を持った方は是非応募してみてください!

日経のエンジニアのお仕事はHack the Nikkeiのページを御覧ください。データ可視化はもちろん他にもエンジニアリングの魅力的なお仕事はたくさんあります。サービス開発も面白いですよ。インターンシップページで、学生向けのインターン情報を掲載しています。
エンジニア、記者志望だからデザインのことはちょっとよくわからない、もしくは興味のある方なども専門性の幅を広げながら学んでいける場所です!